吉備中央町の家
敷地は緑豊かな里山の中にある。築80年の母屋と離れがあり、離れを解体して新たに住宅を建てる計画である。施主は社会人になってからは転勤により長らくこの場所から離れた生活をされていた。ご退職を期に生まれ育ったこの場所に戻り「終の棲家」として新たな時間を育もうとする思いである。計画にあたってはそんな住まい手の想いをくみ取ることから始める。幼き頃過ごした時間を追憶の情景として振り返りながら、現在の自分達の暮らしに合わせた住まい方を実現できないか、古きものへの対話と新たに必要なものへのバランスに配慮した。敷地のランドスケープは里山の風景そのもので緑豊かなこの景色を壊さぬよう建物のボリュームを抑え、できるだけシンプルにしている。間取りは離れで生活が完結できるようにしながらも母屋を一部改修し、通り土間を挟みながら開口部を連続させる事で一体的に使える工夫をしている。日々林や畑の手入れに追われ、自然と寄り添い向き合うのどかな暮らしがそこにはある。里山の豊かな自然とともに暮らすその中で、建築のできる事はわずかではないか。しかしそこでどんな暮らし方をイメージしてあげられるかは設計の大切な役割であり、大きな意味を持つものと考えている。